ノン気な男

「朝川、次どこ?」

「えっと〜、確か7号館かなぁ〜・・・ん?5号館?」

おいおい。授業始まって2ヶ月経っているぞ。いい加減覚えろ。
どっちかなと悩んでる割に全然困った風ではない。
紙パックのジュースを吸いながらどっちかなどっちかなと言葉遊びのように言っている。

「・・・俺、次5号館だけど一緒行くか?」
「いや、たぶん7号館だと思うから〜。・・・・7号館てどこだっけ?」

「・・・・・図書館の隣だ。」
未だにこいつは大学構内を覚えられないようだ。
腕を組んで考えのポーズをして黙っている。

「ああ!あそこが図書館だ!」
図書館も覚えてなかったのか。

「よし。行くか。」
「ん」
俺たちは食べ終えた食器のトレイを返して食堂を後にした。

「おい朝川。ちゃんと図書館分かるよな?」
「大丈夫大丈夫〜。昨日行ったばっかだから。」
昨日行ったのなら何故あんなに悩んでいたんだ。

「じゃあな」
「ばいばい〜」
俺と朝川はそれぞれの教室に行くため別れた。
朝川の方を振り向いてみると、俺の方を向いて手をヒラヒラと振っている。
早く行け、バカ。





俺と朝川は今日は昼に初めて会った。講義が一緒だったから昼も一緒に・・ということではない。
というか、ほとんど同じ講義はない。

そもそも、学部が違うのだから講義が違うのは当たり前だ。
俺は経済学部で、朝川は文学部だ。
唯一、一般教養で取った講義が一緒だったのだ。
その2回目の授業で朝川は俺に話しかけてきた。
ニコニコと、のんびりな口調で話しかけてきたのだ。
最初は変な奴かと思ったが、初めての相手なのだから笑いを絶やさないのは普通なのであろう。
俺が愛想がなさすぎなのかもしれないが。
しかしこいつは異常なほど笑顔すぎないか?

それからメアドを交換して、何故か昼飯を一緒に食べるようになったのだ。
こいつは友人がいないのかと、俺は心配していたら、そんなことはなかった。
心配した俺がアホみたいだ。

こいつと一緒に歩いていると、大体誰かしら話しかけてくる。
男もまあ、そこそこだったが、女からがやたら多い。
聞いてみれば、知っている子もいるが、知らない子も多いとのことだ。
知らない女から話しかけてくる。一緒に昼どうだとか、どっか一緒に出かけようだとかのお誘いだ。
ということは、こいつはモテる・・・ということなのか?
俺はモテた記憶がないので、どのようなことがモテることなのかは分からないが、多分、これがそうだろう。
何故、こいつがモテるのか、いまいち俺には分からない。
朝川は、背は高いほうだろう。180cmくらいはあるだろう。
顔は・・よく分からない。
分からないというのは、俺が顔の良し悪しの判断ができないからだ。顔の作りを気にしたことがないので、どれが良いとか分からなくなってしまったのだ。
まあ、優しい顔なのは分かる。絶えず笑顔は崩さないし。
・・・不気味なくらいに。
性格は、多分良いのだろう。俺の知っている限りでは優しいしな。
といっても、出会って間もないから裏で何考えてるかは知らないが。
だが、こののんびりと言うのか、ぽわんとしている感じなのは良いのだろか。良く言えばマイペースと言えるだろう。
こんなのでも女の子は良いのだろうか。
母性本能をくすぐられるというやつか?

とまあ、こいつは愛想も良く人見知りもしなく誰にでも話しかけられるので、友人が多い。
そして、俺はというと・・・・・・

友人と言える友人は大学にはいない。
大学なんて、クラスが無いのだから、自分から行動を起こさなければ友人なんかできない。
分かってはいたが、大学に入る前はノリと流れでできるだろうから、まあ、いいかと軽く思っていたが、いざ大学に入ってみると

・・・・駄目だった。
俺は人見知りをするほうだから、自分から話しかけることなんてできない。
誰か話しかけて来ると思っていたが、誰も来てはくれなかった。
俺は身長もまあ、普通の170cmくらいで、顔もまあ、普通だろう。服装だって、普通でオタクということではないと思う。

普通・・・すぎるのが駄目なのだろうか。多分、普通すぎて誰の目にも留まらないのだろう・・・。

サークルも別に入りたいものがなかったので入らなかった。俺は団体行動や上下関係なんてのは嫌いなんだ。
そんなこんなしてたら、周りを見てみると何個かのグループができていた。

俺は一人のままだった。

これはヤバイと思ったが、よく見ると一人でるやつも結構いた。なので俺はやっぱりまあ、いいかと考えた。
だから俺は昼も一人で食べていた。

しかし、朝川と知り合ってからはこいつと食べるようになった。友人になった。

大学で初めてできた友人だった。

朝川には何も言ってないが、俺は結構感謝している。
友人がいないということは、思いの外精神的にキていたらしい。
それが、こいつが話しかけてからは、気分が軽くなった。
俺は一人でも大丈夫と思っていたが、どうやら駄目な人間だったらしい。
まあ、朝川にはこんなこと言えないが。





午後の授業を終えて、帰ろうと歩いていたら前方に朝川がいた。
周りには5,6人の女の子がいる。
俺は邪魔しては悪いと思い、声もかけずに通り過ぎた。
そしたら、朝川のほうも俺に気づいたらしい。

「あっナオ〜!ナオ、ナオ〜。」

「・・・・なんだよ。」
俺がせっかく気を使ったのに。

「一緒に帰ろ〜」

「えっ、朝川君、私たちと飲みに行ってくれんじゃなかったの?」
「あ〜ごめんね〜。俺あいつと約束してたんだ。じゃあね。」
「ちょっ待ってよ、朝川君!!」
「え、なんで〜朝川くん〜」

そう言い、朝川は女の子たちから離れて俺のほうにやってきた。
「帰ろ。ナオ」
笑顔が眩しいぞ。

「いいのか?あの子たちは。」
「え〜全然大丈夫だよ〜。飲み行こうって言われても知らない子たちだし。」

そう言うが、女の子たちはこちらを向いて不満タラタラな顔をしている。

「じゃ、俺たちでどっか飲み行こうっか?」
「なんだ、その『じゃ』ってのは。全然繋がっていないと思うが。」
「え〜そんな固いことは気にしないでさ〜どっか行こうよ〜」


そして俺たちは大学を後にした。