王都入京

「た、助けてください!!」
人の賑わう街で、ちょうど視察で来ていた軍隊の一行に人波を掻き分けながら駆け寄る少年がいた。
1人の隊員が少年の慌てぶりに気づいた。
「どうしたんだ?」
「変な人に追われてるんだ。ちょっと隠れさせてくれるだけでいいから!」
少年はそう言い、隊員に次の言葉を言わせる前に隊員の後ろに隠れた。
隊員の後ろには何人かの隊員達が見ていて、少年はちょうど軍隊の中に紛れ込む形になった。
隊員達は何だと思い顔を見合わせていて、少年に話しかけようとしたとき、人々の賑わいがより一層賑やかになった。
「おい!お前たちそこをどけ!領主様のお通りだ!」
「さあどけどけ!通れないだろ!」
人々が嫌がりながらも道を空けた。人波が開けたそこには煌びやかな馬に乗った5,6人の男たちが虚勢を張っていた。馬に乗りながら男たちが軍隊に近づいて来た。よく見ると男たちの中央にはより豪華な馬に乗った恰幅の良い男がいた。
「おい、兵士達。ここらで帽子を被った色眼鏡をしている少年を見なかったか?」
「隠し立てすれば分かってるだろうな。こちらは領主様だ。簡単に首をはねることが出来るのだぞ。」
そう言いながらも周りの男たちは人々を見渡し何かを探してるようだ。
どうやらこの男たちはあまり都を知らないようだ。この都に住んでいる者なら誰でも知っていることを。
この兵隊たちに上から言葉を発する男たちを、街の人々は冷ややかに見ていた。
少年と話をした隊員が男たちに答えた。
「…君たちが言ってる少年かは、分からないが、帽子を被った少年ならそこの路地を慌てて走り抜けて言ったよ」
「本当だな!?嘘を言っていたらその時は覚悟しとけよ!おい!急ぐぞ!」
男たちも兵隊相手ということもあって、あまり反発はしなかった。男たちが急いで路地の方に向かおうとしたとき、
「待て!お前たちこの町の者じゃないだろ?どこの領主様か知らないが、あまり大きい顔していると痛い目みるからな。この街は皇帝直属の街だということを覚えておくんだな。」
男たちは兵隊たちに掴み寄ろうとしたが皇帝と言う言葉を聞いて動けなくなった。
「さあ、急がなくて良いのか?少年がどんどん逃げていくぞ」
隊員がそう言うと、男たちは不満の顔をしたが、そちらのほうが重要のようで暴言を吐きながらも急いで路地の方へ行った。
隊員達は男たちの後ろ姿を見つめて、街の人々も事の成り行きを見ていた。


やがて人々も動き出し、先ほどまでの賑わいが街に戻ってきた。
「君!男たちはいなくなったぞ。あの男たちが言っていた少年とは君のことだな?盗みでもしたのか?まあ、あの者たちはあまり良い奴とは言えないから追っ払っといたけど。」
隊員が振り向きながら言った。少年が隊員達の間から出てきた。
「盗みなんかしてねーよ!!…いや〜ありがとう!!!やっぱ軍隊の人たちに匿ってもらって正解だったよ!あの男たちしつこいんだよ〜。助かった助かった。」
少年は隊員達に何度も礼をした。改めて少年をしっかりと見ると、14,5の年頃と見積もった。身なりはかなりぼろぼろだ。
少年は明るく振舞っているが、手元を見ると震えていて、両手で震えを抑えようとしていた。
「しかしこの街は皇帝直属の街だって?だからこの賑わいなのか〜街の人たちも皆明るいしな〜いい街だ!」
少年が辺りを見回した。
「君は余所から来たのか?」
「…あ〜うん。そう!んじゃ、本当にありがとうございました!!本当に助かりました!!さようなら!!」
隊員の言葉に少年はおざなりに答えて、捲くし立てて言うと、こちらに言葉を言わせる前に隊員達の前を逃げるように去って行った。
「…あ!おい!まだ話は…!」
隊員が大声で少年に話しかけたが、もう少年の姿は見えなくなっていた。
「なんだ、あの小僧は?大方あの偉ぶっているやつらの物でも盗んだんじゃないのか〜?」
横から他の隊員が話しかけてきた。
「う〜ん。しかし軍隊だからといってこの俺たちの隊に助けを求めるとはな〜。あの子供も相当な田舎者だな。」
他の隊員も話に加わってきた。
「あの馬に乗った奴らも本当に領主の手下なのか〜?領主の回し者がこの制服も分からないなんて領主ってのも怪しいよな〜」
「ったく!態度悪いっつのな!それが人に物を頼む態度かっつーんだよ。」
「あ〜だんだん腹立たしくなってきたなー!!」
「早く視察終わらせて飲みに行こうぜ〜」
「そうだな〜」
隊員達は少年の話から先ほどの馬に乗った男たちの悪口に飛んで、ぞろぞろとその場を後にした。
少年と話をした隊員はまだ少年のことを気に掛かっていたが、早く仕事を終わらせようと視察に専念した。


視察の仕事も終わり、隊員達はいつもの酒場へ飲みに行っていた。話の内容は先ほどの一件やあそこの店には美女がいるとか他の隊の話など特に当たり障りのない話で盛り上がっていた。
少年と話した隊員はあまり盛り上がる気にもならず、先に帰らせてもらうことにした。明日は久しぶりの休みということで隊員達はまだまだ飲むだろう。付き合ってはいられない。

軍の寮に向かって、街の喧騒から離れた静かな道を歩いていると、黒い物体が道の端でうずまっていた。近づくと人間で、体格的にまだ子供のようだ。
「君。こんな所で何してるんだ?いくら春に近づいていてもまだ寒いぞ。風邪ひくぞ。早く帰りなさい。」
黒い物体はもぞもぞとして顔をこちらに向けながら言った。
「大丈夫〜俺、体は頑丈だから〜………あれ?あんた…」
「…君は先程の少年か。本当にこんなところで何してるんだ?…家ないのか?ここに野宿するつもりだったのか?」
「…あ〜ここ静かだからさ〜あいつらもこんな所に居るとは思わないと思ってさ〜。」
隊員はため息をつくと少年を立ち上がらせようとするが、少年は抵抗して警戒の目を寄せた。
「なに!?」
「…着いてきなさい。私の部屋に泊めてあげる。」
隊員は歩きだすが少年は着いて来ようとしない。
「どうしたんだ?遠慮することはない。」
「………何もしない?」
少年は警戒の目を更に強め言ってきた。隊員は又ため息をついた。
「何をするというんだ?お前はどう見ても金持ちの坊やじゃないからな。何も盗ったりはしないさ。」
少年は鉄砲玉を喰らったような目をして、笑い出した。
「っくく!誰もそんな心配してねーよ!あははっ!…しょーがねーなー。お前のところに世話になってやるよ!」
どうやら何がおかしかったのかは分からないが、隊員の後に着いてきた。
その後は少年は明るくなり、いろいろ話しかけてきた。
「なー、なんでこの辺静かなの?なんか一気に賑わいが無くなったんだけど。もしや街の外れ?中央に向かってたはずなんだけどな〜」
「中央だよ。ここらは城に向かう道だからあまり人は近寄らないんだ。」
「へ〜こっちに城あんだ〜。…あんた何処向かってんの?」
「城の中だよ。と言っても城壁の中って意味でね。私の住んでいる寮が中にあるんだ。」
「城って皇帝の城だろ?あんたそんなすごいとこの兵隊なの?!」
少年は驚いたらしく眼を大きくした。
「あ〜君は街の外から来たんだっけ。私の所属する部隊は皇国所属の近衛隊だ。」
「え!あんた凄いなー!そんなすごい兵隊だったんだー!皇国所属近衛つったら、皇帝の軍隊だろ!?じゃあ、皇帝いつも見てんだ〜!」
少年はその後もすごいすごいと連発して、もはや何がすごいのか分かってないらしい。
この国では皇国所属近衛兵と言ったらエリート中のエリートだ。だがこの少年には分かっていないらしい。普通なら皇国所属近衛兵と聞いたら、もはやこのような口の利き方はできなくなる。どうやら少年は”皇帝と会えることができる近衛兵”ということで凄いと認識しているようだ。

「しっかし驚いたー!!あの兵隊さんたち俺のことジロジロ嫌な眼で見てさー!おれは汚物かっ!つーの!!つかやっぱ広いな〜皇帝の城ってことで広いとは思ったけど、これじゃあ、街一個入んじゃないのか〜?この寮も綺麗で部屋も綺麗だし!」
少年は部屋に入りながら城の門番たちや城内の様子を思い浮かべながら話をした。
「いいから、君はシャワーを浴びなさい。臭うぞ。」
少年は部屋を見回すのをやめ、自分の体を嗅ぎだした。
「えっ!?臭う!?…う〜ん、そりゃあ何日も同じ服で風呂も入んなきゃ臭いもするよな〜。じゃあ、浴場お借りしまっす!」
少年は言いながら渡したタオルを持ち指し示した浴場へ向かった。

「さっぱりー!!!めっちゃ気持ちいー!!いや〜たまんないね〜!!」
「…君は親父か…。やはり随分大きかったな。すまんがそれが一番小さいんだ。我慢してくれ。…はい。」
少年は浴場から、隊員が出しといただぼだぼの服を着て出てきて、水を受け取った。
「あんがとー。服はなんでもいいよ。俺の服はもう腕通したくないんだよね〜」
確かに少年の服は汚いゴミと言えるほど無残な物だった。
ふと隊員は少年の頭を見た。驚き、眼を合わせて話をしようとすると、又驚いた。
「君…眼が黒いな…髪の根元も黒いから、元は黒いんだな?」
「あ〜もう黒くなっちまったか〜。染め直さなきゃな〜。」
少年は頭を押さえながら何でもないように言った。
「やっぱ、この街でも珍しいのか〜。何処言っても黒い奴なんていないじゃん?驚かれるからさ、帽子と眼鏡で隠してたんだ〜。」
隊員は非常に驚いたが、直ぐに先程のように冷静になった。
「そうか…大陸とは広いものだ。黒髪で黒目の種族もいるのか…勉強になったよ。今度調べてみるか…」
「…よかったー!あんた、普通に接してくれてー!いやさぁ、だいたいこれ見るとさ、驚いて、怖がったり、冷めた目か好奇の目で見るだー!」
どうやら何事もないようにみえたが、少年は緊張していたようだ。少年は緊張が解けたと同時に腹の虫が鳴った。
「どうせろくに飯も食べてないんだろ。用意しといたから食え。」
「うわっ!まじ!?やったー!!ありがとー!!」
少年は隊員に倣い、テーブル近くの床に座った。「いただきます」と言い食べだし、隊員は酒を飲み始めた。
「ねえ、あんた…そーいや、名前何?」
少年は食べながら尋ねてきた。
「あぁ、そういえば名乗っていなかったか。私はピティーだ。」
「へ〜ピティーか〜可愛い名前!俺はね、シュンてーの!」
「シュン…か。珍しい名前だな。」
「でさ、ピティー!…あんたお人よしって言われない?」
シュンの突然の言葉に驚いたピティーだったが、
「…よく言われるよ」
「やっぱりー!!!ぎゃはははー!!」
ピティーはその言葉をよく言われていたので、恥ずかしくなり、真っ赤になってしまった。
シュンはまだ笑い続けていた。

一緒のベッドで寝ようとピティーは言ったが、断固としてシュンはそれを断った。先程まではあれほどずうずうしかったのに。
夜も遅いということで、ピティーが折れて、予備の毛布を貸してシュンはソファーで寝ることになった。

部屋は静かになって、今日は疲れたので、もう寝ようと眼を閉じた時に、シュンが話しかけてきた。
「ピティー。…今度俺の話聞いてくれる?暇な時でいいんだ。」
シュンが先程までとは違く、か細い声で尋ねてきた。
「…あぁ。いつでも聞いてやるよ。何も心配することはないから、早く寝なさい。」
ピティーが何かを察し、シュンの不安を拭うようにおだやかに話した。
「…ふふ。ピティー!おやすみー!」
シュンは笑いながら、先程のように元気な声が返ってきた。
「…おやすみ。」

その日からピティーとシュンの同居は始まった。