ガム

「お前、この間街で見たぞ」
こいつは今日もまた来た。そして何故かまたヤッてしまって、今は終わって恢成が俺に抱きついてベタベタしているとこだ。
 
「えっ街?どこの?」
「いろんな所で見た。電車ん中でも・・・。」
「俺そんな出歩いたかな〜」
恢成は不思議そうな顔をしている。

「平面で・・・・」
「平面・・・?・・・・・・・ああ、ポスターか。見てくれたんだ。俺、かっこよかった?」
「・・・・・・・・」
「あれ、何の反応もなし?かっこいいのは当たり前なんだからさ、言ってくれてもいいじゃんか。じゃなきゃモデルなんかできないしさ。」

確かに。自分自身が己の魅力を知っていないとモデルとか自分の容姿を売りにする物はできないだろう。
しかし、誰もが恢成のことをかっこいいと言おうが、俺には言えない。俺の小さいプライドが許さないのだ。

いや、かっこいいのは認める・・・・。
最初に見たのは電車の中で見て、唖然としてしまった。
首元までキチっと白のYシャツを着て黒のネクタイは上までしっかり締まっている。
首の上を見れば、流し目で俺のことを見ていて、少し開いた口元から覗く舌が俺を誘っていた。
ストイックだが、とても扇情的だ。
最大限にこいつの魅力引き出している。
一瞬見とれてしまい、何の広告だか分からなかった。よく見たら、口元に持っていこうとしている手にはガムが一枚。
ガム一枚で人はこれほどイヤらしく、見えるのだろうか。
いや、これはこいつだからこそイヤらしく撮れたのだ。
誰でもない、こいつの魅力こそがこの広告のウリなのだろう。

そんな人間が俺なんかを何度も抱きにくるなんて。
俺をいつも誘う。
だが、これは万人を誘っている。
俺だけではない。
不特定多数のために、こいつはいる。
俺は今まで夢を見ていたのではないかと先程まで思っていた。

しかし、こいつはほんの何時間前かに俺の目の前に現れた。
そして今は俺とこいつは体が密着している状態だ。

どうやら、夢ではないようだ。

「ん?どこ行くの?」
俺は恢成の腕を解いて立ち上がった。恢成はすぐに俺の手首を掴んできた。
「喉渇いた。」
「いいよ、俺が持ってくるよ。水でいい?」
「・・・ああ」
恢成は俺を座らせて、自分は立ち上がって寝室を出て行った。

何故、こいつは俺に優しくするのだろうか。
何故、こいつは俺を抱くのだろうか。
何故、こいつは俺に会いに来るのだろうか。


「ハイ。どうぞ。」
ベッドに座っている俺のところまで水とカットされたフルーツを持ってきてくれた。
「コレ、どうしたんだ?」
「フルーツ?俺が買ってきて部屋入ってすぐ冷蔵庫入れたけど、気づかなかった?」
俺は頷いてフルーツに手を伸ばした。
「うまいな・・・」
「運動した後だからね〜」
恢成は俺の後ろに回って、俺の背中を恢成の胸につくように抱きながら座った。
「ハイ。あ〜んv」
恢成の持っている桃の刺さったフォークが俺の口元に運ばれた。
そのまま固まっていたら、恢成も微動だにしないから俺は仕方なくそれを食べた。
久しぶりに食べた桃はうまかった。
「次はね〜どれがいいかな〜v」
俺は恢成の肩に頭を置いて楽な状態をとった。そして恢成は俺の口元にまたフルーツを運んでくれた。
俺は今、極楽図という感じになっているだろう。
恢成の顔を見てみたら、とても嬉しそうだ。
どうやら、これがやりたかったらしい。
これが、街中に貼られたポスターと同じ人間なのだろうか・・・・。

「なあ、恢成。」
「なに?」
「なんで、俺なんだ?」
「・・・・何が?」
「俺なんか構わなくても、お前の周りには綺麗な人間がお前をほっとかないだろ。」
「・・いないよ。綺麗な人間なんて。俺には芥しか綺麗に見えない。」
フルーツがキレイになくなった皿を置いて、恢成は俺を強く抱きしめきた。
「分かってるよ。冴えないサラリーマンが珍しかったんだろ」
「なんだよそれ。俺は芥だからつきあってんだよ。誰でもない、芥がいいんだ。俺は芥が好きだよ。信じられない?」
「・・・・・・・・・・・・・ああ」
恢成はため息をついた。
「いいよ。信じてもらうまで何度でも芥を抱いて何度も好きって言うから。」
「・・・・・・・・」

「だからさ、ね?」
恢成は俺を押し倒して腰にある物を主張してきた。
「芥がかわいいから、俺もう我慢できないんだ。」

俺はまたうやむやのうちにヤッてしまった。


明日が日曜日でよかった。